2005年11月05日

ブラジル 偽善とリアリズム



先日、銃販売を禁止するかしないかということをめぐっての国民投票がブラジルであった。ちなみにブラジルでは投票は国民の権利ではなく、義務である。投票を怠ると公民権停止に近い、厳しい罰則を受けなければならない。

ちなみに現在は、届け出制で銃の所持は可能である。それでも実際に所持している人は余りいないようだが。


で、投票の結果はどうだったのであろうか。なんと、禁止反対派が上回ったのである。ということはブラジル国民は銃社会を受け入れたのかと言われるとどうもそうではない。既得権を持つ人達や保守勢力のマスコミを利用したネガティブキャンペーンに扇動されたという可能性が非常に高い。

しかしながら、これは国民が馬鹿だというよりも、そうなってしまう下地があるのである。というのは彼らは、役人がすることなど、まるで信じていないのだ。

以前に政府の肝いりで無届の銃器を回収しようという運動があった。この運動そのものは成功といっていいほどの成果をあげることができたらしい。しかし、実は回収された銃器の中には担当者によって上司に報告されずに横流しされてしまったものがかなりあるらしく、一部が実際に押収されたと報道された。

このように、こちらの役人はこういうことを平気でするのだ。モラルも使命感もあったものではない。せっかくキャンペーンに賛同して善意で拠出したのに、たかが木っ端役人の小遣い稼ぎに利用されてしまったのである。

この暴露が投票結果に影響を与えるためのものであったかどうかはわからない。しかし、こうした事件を切っ掛けにして、役人も警察も当てにはならない、やはり自分の身は自己責任で守らなければならないという気持ちが(大手テレビ局の強力かつ巧みな誘導もあって)盛り上がっていったようだ。


繰り返すようだが、多くの国民はすでに銃を持っていて、既得権益を守るために反対したのではない。持っていないのにもかかわらず反対したのだ。実際、何事にも裏があるもので、しかもブラジルの場合は社会全体に占める裏社会の関与が余りに巨大過ぎるため、中途半端に規制などしても何の意味もないということもある(銃を欲しがるほどの人なら、たとえ違法であっても欲しがるであろうから、抑止力にはならない)。

それどころか規制が増えればまた余計な利権が増え、法の目をかいくぐる裏の産業の発生をまた一つ許すだけなのだ。官僚と裏社会がまた癒着するだけの話だ。どうせ、禁止されたにしても銃なんてどこからでも入ってくるのである。ピストル強盗が増えるのは、闇で溢れるほどの銃が供給されているからだ。

正直言って私の眼から見てもブラジルの官僚組織の肥大化は末期症状に近い。貧乏人なら1週間は足を棒にして通わなければならない煩雑な手続きも、あらかじめコネを持っている金持ちがポンと賄賂を渡せば半日とかからない。結局、一つ新しいことが始まるたびに、苦労するのは善良な庶民であり、悪人と金持ちは常に例外なのだ。そうして質の悪い公務員ばかりが再生産されていく(公務員の一人一人は、決して悪い人ばかりではない。しかし彼らが効率的に働くシステムを公的機関は持っていない)。


ただし、本当に治安の悪い地区の住民は、そんなデメリットばかりが報道されまくっていたにもかかわらず、やはり販売禁止に望みをつないでいる派が多数であった。なんとも言えず痛々しく、適切な言葉が思い浮かばない。

つまり、結局大騒ぎしたわりには何も変わっていないのである。茶番なのだ。大きな世の中の仕組みは、変わっていない。それが小手先の改革で直るはずがない。そんなことは、政治家だってわかっているはずだ。銃販売を禁止したって、需要と供給があれば、市場は自然と形成されてしまう。そちらのルートを潰さない限り、社会から銃はなくならない。潰す気などはじめからないくせに、枝葉の問題で国民に信を問うと言う。どこでも政治家の考えることは一緒だということか。


banner_04.gif
思うところがございましたらクリックをお願いします。

銃規制反対派が圧勝 ブラジルで国民投票

 銃犯罪が多発しているブラジルで、銃と弾薬の売買を原則的に禁止することの是非を問う国民投票が23日、行われた。有力紙フォリャ・ジ・サンパウロ(電子版)によると、即日開票の結果、開票率99%で禁止賛成が34%、反対が64%で反対派が圧勝、銃規制強化は行われないことになった。

 銃製造業界や保守派の政治家らが「規制は犯罪者を喜ばせるだけ」と危機感をあおったのが反対派の勝因。同国の警察は予算や人員が不足し信頼度が低く、賛成派は「自衛のため銃を持つ権利」を手放すよう国民を説得できなかった。

 8月の世論調査では賛成が80%程度で圧倒的に優勢で、規制を訴える非政府組織(NGO)は、国民投票を「世界初の画期的試み」と評価。大半の大手メディアも賛成の論陣を張った。

 しかし、次第に反対派が巻き返しに成功し、投票では全州で反対が賛成を上回る見通し。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)などによると、銃による同国の死者は10万人当たり年間21.72人で世界2位、昨年の死者数は約3万6000人で世界最悪だった。大都市のスラムは武装した麻薬密売組織に事実上支配され、銃を使った強盗や殺人が多発している。


 ■銃規制の是非を問う国民投票 ブラジルで2003年に制定された武器規制法に基づく手続き。警察など治安機関や民間警備員の所持、射撃競技などでの使用を除いて、銃と弾薬の売買を禁止するべきかどうかを有権者に尋ねた。地元紙によると、ブラジル国内にある銃は推定1700万丁。うち半分が違法所持で、390万丁は犯罪組織の手にあるとされる。(共同)
20051104b.jpg

クリックすると大きな画像で見ることができますよん♪
この記事へのコメント
非国際人さん、こんにちは。
御記事を非常に興味深く拝読させていただきました。
日本国内のニュースでブラジルの銃規制を知り、なんとなくアメリカ合衆国とブラジルは似ている国だという印象を受けましたが、どうやら違うようですね。
報道のうわっつらのみを見て判断することの危険を改めて実感しました・・・。
Posted by 喜八 at 2005年11月05日 09:42
喜八さんこんにちは。コメントありがとうございます。
確かにアメリカのように、子供でも持っているというような状況ではないですね。持っているのは大金持ちくらいで、中産階級の人にはあまり関係ないと思います(あくまで私の見聞の範囲ですが)。
犯罪に使われるのは、どうせ違法拳銃なのでオフィシャルに規制しても関係ないです。この共同通信の書き方はおかしいですね。麻薬マフィアがスラムに君臨している限り、状況は変わらないような気がします。
Posted by 非国際人 at 2005年11月05日 23:11
日本の場合、なぜか役人が信用されている面がまだまだ強いですね。
武器横流しのブラジリアン公務員とやっていることの質は同じなのに。
Posted by takeyan at 2005年11月10日 21:13
takeyanさま、コメントありがとうございました。

>日本の場合、なぜか役人が信用されている面がまだまだ強いですね。
それが財産であることになぜ日本の役人(特にトップクラス)は気付かないのでしょうか。一度信頼を失ったら、取り返すのは難しいのに。
Posted by 非国際人 at 2005年11月10日 21:47
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのTrackBack URL
http://blog.seesaa.jp/tb/8982868

【ブラジル】 警察に殺されるよりマシ
Excerpt: 映画 CITY OF GOD を見た人なら納得するだろう。 ブラジルの警察は、世界で一番、人を殺しているからな。
Weblog: 反米嫌日戦線 LIVE and LET DIE(美は乱調にあり)
Tracked: 2005-11-10 15:04
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。