2005年11月12日

今さら「ハルとナツ」を観る



遅まきながらちょっと前にNHKドラマ「ハルとナツ」を見たのでそのことを書いてみよう。



一日目は10月13日の木曜日、場所は「日本文化協会大講堂」である。一応念のために記しておくと、このドラマはブラジル日系移民を題材に採った、五話から成り合わせて6時間に及ぶ「大」大河ドラマである。本編は9月の末に放送済みであったのだが、ブラジル日系人に視聴してもらうために、特別にNHKから文化協会に対してドラマ全編を収録したDVDを提供していただいたとのことである。

ちなみに拙宅でも数ヶ月前からNHKは観ることができる環境にはあったのだが、何しろ放映開始時刻は、こちらの時間で朝9時であるし、そんな時間AV機材はすべて愚息の子供番組のためにフル稼働中であるから、録画もできず、結局観ることは諦めていたので、この企画はまさに渡りに船であった。ちなみにお代は嬉しいことに無料である。ただし、慈善団体へ寄付したいので保存食を1キログラム持参してくれと、なんだか粋と言うべきか、生活感がにじんでいると言ったら良いのかわからないが、タダで見せていただけることでもあるし、社会福祉に協力したいのは望むところであったので、砂糖の1キロパックを会社への通勤カバンに入れて持って行った。

ところでこの文化協会の大講堂というのが、私はブラジルに6年住んでいて初めて入ったのだが、聴衆が1千人は入ろうかという立派なもので、しかも、軽く30年の年季は入っていると思われる、NHKののど自慢の収録をさせたらもってこいのようなたたずまいであったが、この立派さと古臭さがなんとも言えず哀愁を誘わずにはいられない。おそらくこの建物が建てられた頃が日系移民社会の全盛期であり、それ以降は一世人口の減少と若い世代の出稼ぎとで衰退する一方であったのかと考えつつあたりを見渡すと、このだだっ広い会場に埋まっている席はせいぜい2割、贔屓目に見積もって3割程度でますます裏悲しさが募る。当然のように聴衆は全員日本人の顔をしている。


そんなことを考えている私の隣の席に、端正な感じの老紳士が座って話し掛けてきた。年恰好からいって一世の方かと思ったが、口から出てきた言葉はポルトガル語で、なんでも海を渡ったときは母親のおなかの中にいたそうで、生まれたのはブラジルに着いてからであったとのこと。当然日本人として教育を受けたのであるが、ちょうど肝心な時期に戦争のために日本語が敵性言語として禁止されてしまったせいで、きちんとした読み書きは習い損ねてしまったそうだ。

あんた、シントーレンメイを知っているかと言うから、その言葉の響きからしてなんとなく日本の右翼結社の類かなんかだろうと思ったが、一応聞いてみた。シントーレンメイ(臣統連盟)というのは、終戦後にブラジル日系人社会で発生した、第二次大戦での日本の勝利を信じる一派で、この社会では「勝ち組」と言われている人たちが結成した団体のことだ(今の日本で言う「勝ち組」とは意味が違う)。彼らは、正しい情報源から日本の敗戦を正確に認識していた人たちを「負け組」と呼び、魂を売った売国奴として彼らを憎んだ。そして、仕舞いには殺人事件を起こすまでにエスカレートしていったのだ。

その紳士の父親は、医者であった。もちろん日本で取得した免許なので正式には開業していなかったが、それでも移民の間ではずいぶん頼りにされる存在であったそうで、そのため正しい情報を終戦直後には掴んでいた。しかしある時、患者の一人から、あなたの名前がシントーレンメイの暗殺対象リストに上がってますよと知らされ、命からがらサンパウロまで逃げてきたのだと言う。


と、そこまで聞き終わったところで、主催者らしき人が壇上に上がって挨拶をはじめた。すると隣の紳士は手提げカバンの中からごそごそとボロボロにくたびれた手帳を取り出していた。しかし私はその手帳のくたびれ具合からその紳士が只者ではないことを知った。もう現役は引退したであろう風情であったが、とすると半端な勉強量ではないことを感じさせられた。しかも、これからドラマを見ながらメモを取ろうと言うのか。大したものである。

そうなのだ。こういう人たちがかつては日本中にいて、繁栄を支えていたのである。そして、ブラジルにもやはりこの種の人たちがいる。どうして私はこんなことに驚いているのか。それは、非日系人には、この老人のように庶民クラスで普段から書き物を携帯してくるような人は、宗教関係の人くらいしか見当たらないからなのだ。日本人には宗教心がないと言われるが、こうして生活そのものを宗教とまでは言えないにせよ、学びの場としてしまう習慣・態度は、独特なのだ。私はそれを知って、ちょっとだけ感動した。

そうこうしているうちに、ドラマが始まった。紳士は、もうちょっと見やすいところに移動しますと言って、前の方の席に移って行った。(続く)


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