2005年11月16日

フジモリさんの「自己責任」



突如日本を出国したフジモリ氏がチリで拘束されて一週間になった(参照)。これを機会に氏について考えたことをまとめてみたい。

どなたもご存知とは思うが、フジモリ氏はかつてペルーの大統領であった。テロ対策などで辣腕を揮い、日本大使公邸人質事件では日本人離れした采配を見せてくれた人である。ところが国内の反対勢力を抑えきれなくなって任期途中で日本に亡命して来たのであった。

ところでフジモリ氏を語るには、それだけでは全然説明が足りていない。


まず、氏は南米、しかもアメリカの影響が非常に強い北部の政治家である。同じ南米でも、ブラジル・アルゼンチン・チリ等の南部と異なり、この地域は非常に不安定である。コロンビアなどに典型的であるが、アメリカ(っていうかアメリカ資本の意を受けた勢力)の力を借りて成立した政権が、強くなりそうだと今度はもっともらしい理由をつけて敵対勢力を同じアメリカが育てて追い落とす。それが落ち着いてくると、今度は旧勢力にもう一度てこ入れしてひっくり返す。実際は同じ勢力内で指導者の入れ替えがあったり、共産主義勢力が第三勢力として存在したり、麻薬マフィアが介在したりするのでもっと複雑なのであるが、基本的なパターンは変わらない。

ちなみにフジモリ氏の場合は、大統領になりたての頃は弱体であったが、なぜか突然アメリカの支持を得ることになり、急激に強大な権力を持つようになったようだ。ところが、調子に乗って三選を禁止していた憲法を強引に捻じ曲げて三選を果たしたあたりから、アメリカに反対勢力に乗り換えられて、失脚している。そして、あれほど国民から絶大な信頼を受けていたはずなのに、いつの間にか国際指名手配の大犯罪者扱いである。それを今まで日本が保護していたわけだ。

だいたい当時のペルーのような内戦状態の国家で、全く手を汚さずに統治するのは不可能であろう(実際日本大使公邸事件のときも、テロリストを全員射殺している)。それを、失脚したから犯罪者扱いでは、あまりにご都合主義である。こういうことでしか求心力を維持できない現ペルー政府もひどいし、それを追認してしまう各国、特にアメリカはあまりに偽善的過ぎるだろう。


それからフジモリ氏は、名前でもわかる通り日系人、しかも二世である。もちろん南米には大勢の日系人がいるので、一人くらい大統領になれるものがいてもおかしくないのであるが、実際暮らしている私の感想を言わせていただければ、二世代で大統領になれてしまうのは極めて異例であると言える。それは、南米は階級格差が非常にはっきりしていて、上のほうは旧支配者階級だったスペイン人などの大地主ががっちり抑えていて、よほど金儲けの才でもない限り彼らの利権構造に食い込むことは不可能に近いからだ。

ところがペルーには、原住民の子孫であるインディオと彼らとの混血が人口のかなりの割合を占めている。当然貧しく、抑圧されている。同じような背景を共有するものとして、東洋人であり、学者として高名であったフジモリ氏が彼らの勢力によって担ぎ出されたのであろう。しかしそのことは、氏の権力基盤が大衆の人気に依存するに過ぎず、また同時に旧支配層と常に対立することを宿命付けられていたのであって、極めて不安定であることを意味する。


と、そこまではいい。わからないのはこれからである。

まず、すっかり氏の名前を有名にした大使公邸人質事件である。どうもこの話ができすぎていると思うのだ。ゲリラとの八百長説さえある。(この件については詳しい資料は手もとにないので宿題とさせていただく)


それから、当初フジモリ氏は日本国籍は持っていないと報道されていたはずだが、それが一転して日本亡命となり、調べてみたら国籍を持っていたという話になった。どう考えても政治的判断と考えるのが普通である。そもそも日本政府は二重国籍を認めてなどいないのだが、氏のケースは法の抜け穴であったらしい。しかし、日本国民だと言って保護しておきながら、もう一度ペルーでの政治活動を黙認するというのは納得がいかない。あらゆる政治犯にそんなことを適用されてしまってはたまらない。

日本政府は伝統的に海外移住者には冷たいので有名である(外務省の移民政策は「移民」ではなく、「棄民」だと言われたものだ)。ましてフジモリ氏は、言いがかりかどうか知らないがとにかく国際指名手配の身である。つまり、氏を受け入れたのは明らかに例外的な措置である。

また、当初の世論はフジモリ氏の受け入れに否定的であったと記憶しているが、このとき積極的に保護を表明したのが作家である曽野綾子日本財団理事長(旧・日本船舶振興会)であった。そのとき確か曽野氏は「日本人にとって命の恩人であるフジモリ氏を見捨てては、世界の笑いものである」と言うようなことを語ったはずだ。確かにごもっともではあるが、ここで笹川財団が出てきたのに、非常に唐突な思いをしたものである。


そして、今回の出国に際して取った日本国政府の対応もまた疑問である。出国すれば下手すれば氏の生命が危険にさらされることも当然予想されたはずであるが、引きとめた様子もない。また、逆に上手くいった場合を考えると、現ペルー政府にとってみれば犯罪者を放ったと言う意味で、明らかに国交断絶を受けても仕方がない措置であると言える。

にもかかわらず、日本政府は彼の出国を止めなかった。ばかりでなくチリで拘束中の氏と現地大使館員が接触しており、身柄は日本人として取り扱う(=日本に送還させる)よう求めている。これが他の一般人だったら、勝手にしろと言われるだけである。リスクは承知で行ったのだから、当然お得意の「自己責任論」を適用されてしかるべき状況である。

どうしてフジモリ氏だけ、特別扱いなのであろうか。

最後に「報道写真家」の中司さんのご意見を紹介しておきたい。
日本政府の動きは、非常に不可解である。何かにつけ、コトナカレ主義の日本政府・官僚が、国際手配犯に対して、いたれりつくせりだ。何かがあると思わざるを得ない。

(中略)

日本の政治家や官僚は、フジモリ氏に痛いところを掴まれているのかもしれない。

そうだ、絶対に怪しい。この話には裏があるに違いない。


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おかしいと思った人は

《追記》
当エントリーには続編があります。
フジモリ問題は日本に課せられた踏絵であろう



この記事へのコメント
非国際人さんこんばんわ

政治的背景などさすが詳しくてとても参考になります。
フジモリの背後に何があるかが気になるところですね。日本財団はどういったつながりがあるのか。
掘り下げるとスイスの銀行にある元側近のモンテシノス国家情報局・元顧問名義の総額4,800万ドル(約52億8,000万円)に上る銀行口座との係わりなど臭い話がかなり出てきます。いったいどうなっているのでしょう。
Posted by miyau at 2005年11月16日 21:47
みゃうさん、いつもありがとうございます。
私の書くものは相変わらずの与太話で、ホントお見苦しい限りです。
ところで、モンテノシスですが極めて胡散臭い人物ですね。ただ、彼すらも主役ではなく、話の本筋は別の所にあるような気がします。
日本もこの問題ではいよいよ悪役にされてしまいました。
Posted by 非国際人 at 2005年11月17日 01:41
こんばんは。

> まず、すっかり氏の名前を有名にした大使公邸人質事件である。どうもこの話ができすぎていると思うのだ。ゲリラとの八百長説さえある。

この事件に関しては凄い文章を読んだことがあります。
安全保障の専門家である青山繁晴という人がテリー伊藤との対談『お笑い日本の防衛戦略』飛鳥新社(2001)の中で、少年少女を含んだゲリラたちは投降後に強姦され手足をバラバラにされ虐殺されたと明言しているのです。フジモリ大統領の許可のもとに。
青山繁晴氏は近著『日本国民が決断する日』扶桑社(2004)の中でもこのことを書いています。
これが真実だとしたらフジモリ元大統領は「本物の人殺し」ということになりますね。日本国はそういう人物を厚遇し匿っていたことになります。

> どうしてフジモリ氏だけ、特別扱いなのであろうか。

本当に不思議です。
何かしら裏があると考えてしまうのが普通でしょうね。
Posted by 喜八 at 2005年11月27日 20:01
>喜八さん

貴重な情報ありがとうございます。
心優しきヤマトの民としては余り信じたくないのですが、どうもフジモリ氏は顔は日本人でも精神構造は完全に、インカ帝国を滅ぼした、あの卑怯で残虐なスペイン人征服者と同じものを持ってしまったようです。

現地の日系人も、聞く限りでは全く彼に思い入れる気持ちはないようで、私はこれを単なる嫉妬心かと思っていましたが、今では本気で迷惑しているように感じます。

貧しい移民が、わずか二世代でのし上がって、支配階級の一員になるためには、そこまで非情に徹しなければならないのかと、改めて現地の社会状況がたいへんに過酷なものであることを思いました。

こんな彼にまんまと金を引き出されて、隠れ家まで提供してしまった日本人は、ホントお人よしでした。私もそんな日本人の一人なんで偉そうな事は言えませんが・・・
Posted by 非国際人 at 2005年11月29日 00:28
なお大使公邸占拠事件のとき青山氏は共同通信の記者としてペルーに4ヵ月間滞在していました。虐殺に関しても捕虜となった日本人(複数)から直接証言を取っての上での発言です。信憑性は非常に高いと思います。
Posted by 喜八 at 2005年11月29日 05:42
喜八さん、追加情報をありがとうございました。
天網恢恢祖にして漏らさず。人は騙せても天を欺くことは決してできないと言うことですね。
もしこれが本当なら、日本当局の彼への特別扱いもある程度わからないでもありません。決して支持はしませんが。
Posted by 非国際人 at 2005年11月29日 19:26
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