2005年11月23日

アルゼンチンの経験を知ることはムダではない



和光市市議会議員の松本さんからのご要望で、アルゼンチンの財政破綻について何か、ということで探してみました。ちなみに私は、当時ブラジルで現役の駐在員だったので、現地の経済誌から情報を得ていましたが、ポルトガル語だし、毎日読んでいないと前後のつながりがわからなかったりで、人にはお勧めできません。そこで、私が目にした日本語のサイトの中でおすすめを挙げて見ます。

まず、やはり一番わかりやすかったのが田中宇さんの解説です。

アルゼンチンの悲劇
アルゼンチンの悲劇(2)

ところがIMF悪役論という、実にありがちな結論が見えてしまって余り面白くありません(笑)。大体日本人の書くものは、このパターンから出ていないのが多くて読み応えとしてはいまいちです。私もIMFは好きではありませんが、そこで判断停止してしまってもいけません。


ところが、ブラジルの日本語サイトの中には、結構まともなことを言っているものがありました。

アルゼンチン危機とブラジル、ペルー(横浜国立大学経済学部助教授ペルー問題研究所(在リマ)客員研究員 山崎圭一)より抜粋
4 「制度的能力の向上」の遅れ
   
 第4の原因は、「制度」の改革の遅れで、これが一番重要である。近年途上国経済のパフォーマンスの改善には、新自由主義の考え方にしたがった貿易自由化や規制緩和だけでなく、司法制度や立法機関(国会)の透明化・民主主義化、行政能率の向上、汚職の撲滅、治安の改善、無法地帯の極小化、公務員の縁故採用の禁止といった、「制度的能力の向上」が重要だと、認識されるようになっている。競争的な公務員試験で採用された、公僕としての使命感と規律を持った公務員が増え、役人や警官に賄賂を渡す必要がない社会で、それを経済学では、「取引コスト(transaction cost)」が極小化された状態と呼ぶ。
   
 IMFが経済自由化を重視し、世銀が「制度的能力の向上」を重視するという点で、両者の間で、開発に対する態度に温度差が生じていることは、近年よく知られている。世銀内部での制度論の興隆の背景には、ノーベル経済学賞を受賞した世銀の上級エコノミスト、J.スティグリッツの影響力がある。アルゼンチンは、こうした制度面の改善が遅れたと理解すべきである。公的部門が腐敗し政治家のモラルが低い環境において、民営化が実施されても、結局利権が国家部門から一部の民間企業家の手に移るだけで、経済全体のパフォーマンスの改善にはつながらない。このことは、イタリア人経済学者のグループの民営化研究が、明らかにしている。アジア経済研究で著名な、ペルーの国立サン・マルコス大学経済学部カルロス・R・アキノ助教授は、「アルゼンチン危機――我々が避けるべきドラマ」と題する記事(International Press所収)の中で、労働市場のフレキシブル(柔軟)化、民営化だけに止まらない国家部門の改革、中央政府と地方政府の行財政関係の改革、貿易システムの近代化、資本市場の近代化などに、本来アルゼンチンが取り組まねばならなかったのに、こうした課題が手つかずのまま放置されてきたと、批判している。これも、「制度的能力の向上」の重要性の指摘である。
   
 IMF流の緊縮路線を走ったとしても、制度的能力が改善されていれば、すぐには社会不安に導かないであろう。アルゼンチンは、IMFの指導にのみ従い、世銀の近年の考え方を尊重しなかったのではないだろうか。今途上国にとって大切なことは、世銀の強調する、汚職の撲滅、公務員の縁故採用の廃絶、犯罪の縮小、司法制度の透明化と民主化といった改革課題に、力を注ぐことである。制度的環境の整備こそが、市場メカニズムの正常な機能のために、必要不可欠なのである。

ん〜 これが小泉自民党の誰かの意見だったとしても決しておかしくないかもしれませんが、これがアルゼンチン問題についての正統的な見解だと思います。

それから、地方政府との関係については、やはり発想は古典派的ですが、ブラジル在住の経済評論家でいらっしゃる高木さんの書かれた文章があります。

祖国の政治家よ日本を第二のアルゼンチンにするな! 高木 登
アルゼンチンの場合はJusticialista党(正義党と言う意味であるが、一般にはペロン党と言っている)が寡占的にアルゼンチンの政権を握り、汚職をしても罰せられない体質を作ってしまったことである。アルゼンチンの現在の問題はペロン党がほとんど政権を握る24の地方政府であり、必要もないのに人気を取るために地方公務員を増やし、それで毎年財政を赤字にしており、連邦政府に交付金をねだっていることである。連邦政府の交付金が少ないと言って、事実上の借金である日本の昔の藩札に当たる地方債通貨を発行するなど言語道断のことをしている。IMFも業を煮やして、地方政府の放漫行政が解決されない限り、支援資金を出さないと言っている。事実アルゼンチンの地方政府の財政赤字体質を矯正しなければ、いくら金をつぎ込んでもどぶに金を捨てるのと同じことである。


なお、このエントリーはアルゼンチン危機の概要と、一般的にどう受け止められていたかを知っていただくことが目的ですので、紹介した方々のお考えは私の意見と必ずしも一致するものではありません。

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少しはご興味をお持ちになりましたら


この記事へのコメント
改革の行方について、本当に考えるなら、やはり皆でアルゼンチンの経験をよくよく共有すべきですね。
市民との接点に直接立っている我々地方議員や地方自治体は、どうしても市民要望に耳を傾ける機会が多くなります。
一方で、流行に乗るだけの財政再建論というのでしょうか、危機を煽るだけで内容を理解していない議員も多々います。
まずは、地方議員、自治体の職員がアルゼンチンの失敗に学ぶことなのでしょうね。
良い取っ掛かりをいただきありがとうございます。
Posted by takeyan at 2005年11月24日 11:27
いえいえ、お粗末さまです。

地方分権の掛け声のもと、地方政治に携わる皆さんにかかる責任は今まで以上に重くなるだろうと思われます。
一方財政においても、中央と地方との綱引きはますます避けられないものになっていくことに違いありません。
このような状況下、皆さん旧弊にとらわれず、また、真に住民の利益になることは何であるか常に優先順位を考えながら、仕事に取り組んでいただきたく存じます。
Posted by 非国際人 at 2005年11月25日 02:07
今多いのは、それでもばら撒きに加担する議員と、ヒステリックに財政危機を叫ぶだけの議員です。
私はそれでは納得できないのですが、代替案を用意できているかというとできていないのが現実です。
今用意されている補助金などのメニューは活用させていただくとして、今後の制度設計については締めていく、という二段構えが必要であるのかな、とは思っています。
Posted by takeyan at 2005年11月25日 11:07
やはり多くの議員さんはばら撒きたいんでしょうね(笑)。支持者もそれを期待しているだろうし。
できることできないことを理詰めで説得できるようにならないと・・・。急には難しいでしょうか?でも民間はみんなそうしてやってるんだし、できないはずがないんですよね。
Posted by 非国際人 at 2005年11月29日 00:05
 中国・朝鮮といったアジア関連が多い「政治ブログ」の中、貴記事の地球の裏側からのブログ、面白く読ませて貰っています。今後の活躍期待しています。
 さて近年のアルゼンチン経済・社会の崩壊ー政治は昔から崩壊(笑)ーについて、大変興味ある論点があるので、多少コメントさせて頂きます。第1点の「制度的能力の向上」ですが、これはそんなに簡単にできるでしょうか?戦後独立した低開発国(現在の中国も含めて)は、独裁国家ーこれは独裁者に忠誠ですからーを除き、全てできていません。なぜか?やはり統治者の信頼性がないからでしょう。政府ないしは時の権力者に騙されるかもしれないので、目先の利益(賄賂など)に走るのだと思います。第2に、1980年代、韓国・台湾など並んでメキシコ・ブラジル・アルゼンチンなどがNICSと呼ばれました。しかし今やその格差は極めて大きい。台湾・韓国は全て一人当たりGDPは一万ドルを超えていますが、1800年代初期から独立し、台湾・韓国、いや終戦直後は日本すら歯牙にも掛けなかった中南米の国々が一人当たりGDPが5,000ドルを超えられない。この差異はなぜか?私は、日本が近くにあったか否かでないか、と思います。欧米は悔しくて認めないように感じますが、台湾・韓国(旧日本領)の躍進やその外延たるASEANNの躍進、全て日本によるものだ、と思っています。ついでに言えば多分中国も。
 中南米からみると、特に台湾・韓国・ASEANNの躍進はどう見えるのでしょうか?
Posted by  よっちゃん at 2005年12月04日 23:29
>よっちゃんさま
コメントありがとうございます。遅くなって申し訳ありません。
まずご指摘いただきました「制度的能力の向上」ですが、かなり難しいと思っています。これは世銀の作文に近いですね。
まず、中南米各国には、大地主と奴隷に近い労働者という基本的な枠組があって、それが植民地開闢以来変わっていません。
だから、この経済的基盤の上に立ったどんな民主主義的制度も、絵に描いた餅でしかありません。
それこそ革命でも起こして、この旧支配者階級を一掃するか、それとも、思いっきり工業化して、悲惨な状況におかれている農業従事者を吸収するしかない。
しかしそんなことは不可能だから、国際金融資本は旧支配層を温存して、彼らの代理人として間接的に支配しています。
彼らに貸しっぱなしのはずのお金は、実はブラックマネーになってケイマン島あたりにあったります(笑)。だから、実質的にはいたくも痒くもないでしょう。しかしそれは名目的には国民の借金だから、貧しい国民がせっせと利息を払っているわけで、こうして国家自体はどんどん貧しくなっていく。
日本など東アジア諸国との違いは、再投資するかどうかではないですか?何故アジアでは日本だけ、そういう思想が発達したのかは謎ですが、日本では社会的に余った資金を投資の形で社会に還流させるシステムが上手くできていますよね。郵便貯金とか。南米では貯金なんてしてもインフレで飛んで行っちゃうので、ちょっとお金のある人はドル紙幣に換えてます。でもこれってタンス預金だから、社会には全く還流されません。
こんなふうだから、どんなに借金してお金をつぎ込んでも、大部分が経済システムから逃げてしまうのです。これじゃ経済は大きくなりません。
賄賂については論じませんでしたが、経済学的に解釈することも可能です。サービスの供給量が少ないのに、サービスに対して付けられた価格が不当に低ければ、その理論的価格との差が賄賂になるのではないですか。すべては市場の歪みで説明できると思います。そして、そもそもその市場の歪みをもたらしているのが、大地主制だと考えています。
ちょっと論理が乱暴になってしまいましたが、おかしな点があればまた書き込んでください。こちらとしてもいい勉強になります。
Posted by 非国際人 at 2005年12月06日 04:57
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